皆様の中にロッククライミングを行った方がおられるだろうか。
屋内で行うものはボルダリングという。
ボルタレンではない。
ボルダリングである。
先日、近所のプール施設に、突如として、例の大小さまざまな形の、カラフルなごつごつした突起物が配された絶壁が出現し、新し物好きな息子と体験してきた。
よじ登る格好は、足指、足裏まで柔らかく自在に動く、履いたことはないが足袋の西洋版のような、クライミングシューズとジャージ。お手軽である。
壁を前にして、上を見上げて直立する。
子供の頃は木登りが得意だった。
私にとって、このくらいの壁は朝飯前なのだと、ふうと息を吐いた後、ふんふんと鼻息荒く登り始めた。
三島由紀夫が「男が女より強いのは、腕力と知性だけで、腕力も知性もない男は、女にまさるところは一つもない。」と言っていたから、とにかく腕力に物を言わせて、一心不乱にぐいぐい登っていく。
と、半分くらいの高さで、ふと、四肢がバラバラの方向に散らばり、体の芯がぐらつくことに気がつく。
そう、ボルダリングとは、腕力ではゴールできない、バランス感覚と頭脳を酷使する、非常に知的なスポーツであったのだ。
ここで気がつくとは何たる失態。
さあ、困った。
次の一手はどうしようと、壁に這うヤモリのような格好で考える。
下からは奥さんと息子の熱い視線を感じる
下から、下から、下?
一瞬下を見る。
途端に尻の穴付近から無数のアリが高速で首筋まで駆け上がるような悪寒が走った。私の顔はまさにムンクの叫びだ。
そう、私は筋金入りの高所恐怖症!であった。
最近物忘れが激しいが、ここまで進行しているとは。。
その後は、尻汗をかきながら、一歩、一歩と後退した。
奥さんと息子には、後退戦の難しさを説いてごまかした。
きっとごまかせなかった。