水切り遊び
水切りとは、平たい石を水面に向かって浅い角度で投げて、ポオン、ポオンと跳ねる回数を競う遊びである。
家族で水辺に行くと、僕はおじさんと化した今でもそわそわしてしまう。
我が息子は、そわそわするだけでは留まらず、気がつくと平たい石を求めて歩き出している。
なぜ水辺に行くと水切りをしたくなるのだろうか。
重力で沈むはずの石が、ポオン、ポオンと跳ね上がる様子が不思議に見えるからなのか。
もしくは重量で水没するという常識に軽やかに逆らいながら一直線に向こう岸を目指すという、自分にはない姿を何度も見たいと思うからなのか。
水辺で投げたくなる理由をきちんと考えたことなどないが、ひんやりした平たい石を握り、腰を落としてスナップをきかせるように振りかぶるだけで、脳天が阿波踊りのように喜び勇んでいるのを感じることができる。
もしも跳ねる回数を重ねて向こう岸まで辿り着くことができたなら、私は宇宙飛行士にだってなれるのかもしれない。
人生は努力と才能の左右のバランスと、運勢の回転速度によって、どこに跳ねて行くか分からないのだから。
現在私は会社帰りにファミレスでコーヒーを飲んでいる。
隣席では、男子高校生がパスタを頬張りながら女子高生と勉強をしている。
さっきから楽しく話してばかりで、勉強なんかしていないじゃないか。
思わず男子高校生の顔をした石が女子高生に投げられて、一度も跳ねることなくドボンと沈むところを想像してしまう。
大人のひがみゆえにとても歪んだ想像力にかかれば、君など一瞬で川底のカニの寝ぐらになり果てるのだ。
なお、水切りのギネス記録は88回である。
すげ。